大原空を知っているだろうか。
そのとき私は、VAZZROCK THE ANIMATION(通称バズアニ)を見ていた。
ツキプロのことは全然わからないのだが、吉良凰香(CV小林祐介さん)の歌声があまりにも良すぎるから、何なら事前番組のばずたびから見ていた。
どうやらこの枠は、ムービックの中でもツキプロ関係のCMばかりを流してくれるらしかった。
そうして毎週聞かされたCMがこれだ。
ツキプロのALIVEシリーズ、SOARAの大原空(CV豊永利行さん)による、「空色のラブソング」。
…いま豊永利行にこういう歌歌わせるコンテンツあるんだな。
これが、まず抱いた感想である。
でもツキプロって長寿なはずだし、豊永利行さんに、高めのお声のどストレート若者ラブソングで勝負させるなんてことも、全然有り得るか。
などと勝手な納得をしながら、
とにかく、なんか手持ちの豊永利行さんレパートリーでは珍しい曲だから、買っちゃえ。
というお手軽1-clickをしたのであった。
そして幾日かは、歌声と曲調をメインにして、「珍しくて、懐かしいようで、どこか悲しく、でも明るくて、楽しい」という気持ちで聞いていた。
よく歌詞を聞くまでは。
あれ??これ若者ラブソングじゃないな?????
どういうことだツキプロ?なんだこの子?
言葉を追えば追うほど、全然ラブソングじゃないが?
どういうことだ?なんだこの子?
大原空を知っているだろうか。-2-
私は知らない。
しかし、「空色のラブソング」を知っている。
「空色のラブソング」だけを知っている。
そしてこの曲から見える大原空像は、こうだ。
おそらく彼は、いちど、「才能」をなくしている。
あの頃の力のことを、たとえば「トトロ」の存在みたいに感じているのだろう。
日常が、夢と現実の境目なんかない世界だっただろう。
そして、夢と現実に境目を引いたのは、「才能」をなくした自分自身なのだろう。
あの頃の「才能」に、憧憬を抱いてはいるけれど、あれは「夢」と地続きにある力であって、「現実」の先にある力ではないということにも気付いている。
今はきっと、現実で手にしたものも大切で、夢の中だけの青かった才能に盲目になって生きるつもりは無さそうだ。
彼は「歌うこと」で、「夢」の中できっとずっとまだ生きているはずの、「現実」に持ってこられなかった自分を、その後悔も、認めて、愛していこうと決めたのだろう。
なくしたものも愛するために、これからも「歌」を歌っていくのだろう、きっと。
「空色のラブソング」は、そういう全ての決意のことなんだ。
大原空を知っているだろうか。-3-
私はまだ、大原空を知らない。
今まで書いてきたことはすべて、たった一曲から妄想したイメージだ。
だけどもうここまで来たら、本当の大原空を知るほかないのだ。
だって、共感してしまったのだから。
大原空を知っているだろうか。
「空色のラブソング」は、そういう全ての決意のことなんだね。